先物取引とは?意味・仕組み・歴史・取引時間・日経225戦略をわかりやすく解説
投資の世界に触れると、「先物(さきもの)」や「先物取引」という言葉を耳にする機会があります。「先物」とは、一体何を意味するのでしょうか? 先物取引はなんだかハイリスクなイメージがあるけど、その仕組みはどうなっているのか? 株式などの現物取引とは何が違うのか? 取引時間は違うのか?
この記事でわかりやすく解説します!
先物取引は、株式や債券、商品(コモディティ)、通貨など、様々なものを対象に行われているデリバティブ取引の代表格です。その仕組みやリスクを正しく理解することは、市場の動きをより深く読み解き、投資戦略の幅を広げる上で重要となります。
この記事では、「先物取引」とは何か、その基本的な意味や仕組み、なぜこのような取引が生まれたのかという歴史、日本で取引できる主な先物商品、気になる取引時間、そして代表的な日経225先物を用いた戦略の考え方や注意点まで、初心者の方にもわかりやすく徹底解説します。
先物取引とは?投資用語の徹底解説
先物取引の基本的な意味 ~将来の売買を「今」約束する取引~
先物取引とは
将来の特定の期日(満期日)にあらかじめ定められた特定の商品(原資産)を、現時点で取り決めた価格で売買することを約束する取引
のことです。英語では「Futures Trading」と呼ばれ、デリバティブ(金融派生商品)の一種に分類されます。
ポイントは「将来の売買の約束を、今の時点で行う」という点です。

「先(さき)の物(もの)」の取引だから「先物」と呼ばれる、と考えるとイメージしやすいかもしれません。
現物取引との違い
普段私たちが行うスーパーでの買い物や、証券会社を通じた株式の売買などは「現物取引」です。その場で商品(または株式)とお金を交換します。
一方、先物取引では、取引時点では実際の商品やお金の受け渡しは行いません。あくまで「将来この価格で売ります/買います」という契約(約束)を売買するのです。そして、その約束の期日(満期日)が来た時に、契約内容に従って決済が行われます。
先物取引の主な仕組み
先物取引を理解する上で重要な、基本的な仕組みに関する用語を解説します。
- 原資産: 先物取引の対象となる元の商品や金融指標のことです。原資産には様々なものがあります。
- 限月 先物取引の契約が満了する(決済が行われる)月のこと。「〇〇年〇月限(ぎり)」のように呼ばれます(例:2025年6月限)。多くの先物には複数の限月が設定されており、投資家は取引したい限月を選んで売買します。
- SQ (Special Quotation) 主に株価指数先物や株価指数オプション取引において、限月の最終的な決済を行うために、満期日に算出される特別な価格(指数値)のこと。「特別清算指数」と呼ばれます。このSQ値と、自分が売買した価格との差額で損益が決まります。
- 差金決済 多くの金融先物取引(特に株価指数先物など)では、満期日が来ても原資産そのものを受け渡しするわけではありません。その代わりに、取引開始時の売買価格と、最終的な決済価格(SQ値など)との差額だけを、現金で受け渡しすることによって決済が完了します。これを「差金決済」と呼びます。(※商品先物の一部では、現物を受け渡しする「現物決済」も可能です)
- 証拠金取引 先物取引を行う際には、取引する金額の全額を用意する必要はありません。取引の担保として、取引金額の一部にあたる「証拠金」を証券会社や商品先物取引業者に預け入れることで取引できます。必要な証拠金の額は、取引する商品や市場の状況によって変動します。
- レバレッジ この証拠金取引の仕組みにより、預け入れた証拠金の何倍もの価値の取引を行うことが可能になります。これを「レバレッジ効果(てこの原理)」と呼びます。例えば、証拠金が10万円で、100万円分の先物取引ができれば、レバレッジは10倍です。少ない資金で大きなリターンを狙える可能性がある一方、損失も同様に大きくなるリスクがあります。
これらの仕組みを理解することが、先物取引を始める上での第一歩となります。
先物取引が行われる主な目的
先物取引は、主に以下の3つの目的で利用されています。
- ヘッジ(リスク回避): これが先物取引が生まれた本来の目的に最も近い利用法です。保有している現物資産(株式ポートフォリオ、商品在庫、外貨建て資産など)の将来の価格変動リスクを回避(ヘッジ)するために利用されます。例えば、株式をたくさん保有している投資家が、将来の株価下落に備えて株価指数先物を売っておけば、実際に株価が下落しても、先物の利益で現物株の損失を相殺することができます。農家が将来の農産物価格の下落に備えて先物を売る、メーカーが原材料価格の上昇に備えて先物を買う、といった利用法もこれにあたります。
- 投機的トレード: 将来の価格変動を予測し、価格差から利益を得ることを目的として売買する取引です。レバレッジ効果により、少ない資金で大きな利益を狙うことが可能ですが、予想が外れた場合の損失も非常に大きくなるハイリスク・ハイリターンな取引です。市場の価格発見機能に貢献する側面もありますが、過度な投機は市場の変動を増幅させる可能性も指摘されます。
- アービトラージ(裁定取引): 先物価格と現物価格の間や、異なる限月間の先物価格の間などに生じる、理論的に説明できない一時的な価格差(歪み)を見つけ出し、割高な方を売り、割安な方を買う取引を同時に行うことで、リスクを抑えながら確実に利ざやを得ようとする取引です。主に機関投資家やプロのトレーダーが、高度なシステムを用いて行います。この裁定取引が働くことで、市場間の価格差は是正され、市場の効率性が保たれると考えられています。
先物はなぜできたのか~先物取引の歴史~
現代では金融商品のイメージが強い先物取引ですが、そのルーツは古く、価格変動リスクを管理したいという切実なニーズから生まれました。
先物取引の起源 ~豊作・凶作リスクに備える知恵~
先物取引の原型は、農産物の取引にあります。農家にとって、収穫期の天候不順による凶作で価格が高騰するリスクも、逆に豊作で価格が暴落するリスクも、どちらも経営を脅かす大きな問題でした。一方、米商人や消費者にとっても、価格の不安定さは悩みの種でした。
そこで考え出されたのが、「将来の収穫物(例えば、半年後の米)を、今の時点で価格を決めて売買する約束をしておく」という方法です。これにより、農家は将来の収入を確定でき、買い手は将来の仕入れ価格を確定でき、双方が価格変動リスクを回避(ヘッジ)することができました。いわゆる先渡し契約であり、これが先物取引のはじまりです。
日本の江戸時代に存在した「堂島米会所(どうじまこめかいしょ)」(大阪)は、世界で最初の組織的な公設先物取引所であったと言われています。ここでは、実際に米俵を受け渡しする「正米取引」だけでなく、米の将来の価格変動を対象とした「帳合米取引(ちょうあいまいとりひき)」という、差金決済を伴う高度な先物取引が行われていました。このシステムは、当時の日本の経済発展を支える重要な役割を果たしました。

現在も日本の先物取引はOSE(大阪取引所)で行われています。古くからの歴史があるんですね
近代的な先物市場の発展 ~シカゴから世界へ~
近代的な先物取引市場は、19世紀半ばのアメリカ・シカゴで大きく発展しました。当時、中西部の穀倉地帯の中心地であったシカゴには、大量の農産物が集まりましたが、収穫期に供給が集中して価格が暴落したり、輸送や保管の問題も発生したりしていました。
こうした問題を解決するため、1848年にシカゴ商品取引所(CBOT)が設立され、トウモロコシや小麦などの農産物を対象とした標準化された先物契約の取引が始まりました。
その後の鉄道網の発達による輸送能力の向上や、電信技術の普及による情報伝達の高速化は、先物市場の地理的な拡大と取引の活発化を後押ししました。また、取引ルールの整備、取引単位や品質の標準化、そして決済の履行を保証する「清算機関」の設立など、取引の信頼性と安全性を高めるための制度的な基盤が整えられていったことも、市場発展の重要な要因です。
金融先物の登場と多様化
20世紀に入り、特に1970年代以降、先物取引の世界は大きな変貌を遂げます。
1971年のニクソン・ショックによる固定相場制(ブレトン・ウッズ体制)の崩壊と、変動相場制への移行は、為替レートの変動リスクを増大させました。これに対応するため
1972年にシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)で通貨先物の取引が開始されました。

現在につながる先物取引はここからはじまりました
さらに、1970年代後半から1980年代にかけては、インフレや金利の変動が激しくなったことを背景に、金利先物や株価指数先物(S&P500先物、そして日本でも1988年に日経225先物とTOPIX先物)が登場し、急速に市場が拡大しました。これらは「金融先物」と呼ばれ、現代の先物取引の中心となっています。
現在では、エネルギー、貴金属、農産物といった伝統的な商品先物に加え、非常に多岐にわたる金融資産や指標を対象とした先物取引が、世界中の取引所で行われています。
また、コンピューター技術の発展は、電子取引プラットフォームの普及や、アルゴリズム取引(特にHFT)の台頭をもたらし、先物市場の取引はますます高速化・複雑化・グローバル化しています。
このように、先物取引は、経済社会のリスク管理ニーズに応える形で生まれ、時代とともにその対象や手法を進化させてきた、非常に長い歴史を持つ金融取引なのです。
日本市場の先物取引~日経225先物戦略~
日本の市場では様々な先物商品が取引されていますが、ここでは代表的な商品と取引時間、そして最もポピュラーな日経225先物を用いた投資戦略の考え方について解説します。
日本で取引できる主な先物商品
日本国内では、主に大阪取引所(OSE)と東京商品取引所(TOCOM)(両者とも日本取引所グループ傘下)で様々な先物商品が取引されています。主なものとしては以下が挙げられます。
株価指数先物 (OSE=大阪取引所)
- 日経225先物 (ラージ / mini / マイクロ): 最も取引量が多く、流動性が高い、日本の代表的な株価指数先物。取引単位の異なる「ラージ(1000倍)」「ミニ(100倍)」「マイクロ(10倍)」があり、特にミニとマイクロは個人投資家にもアクセスしやすく人気があります。
- TOPIX先物 (ラージ / mini): 機関投資家による利用が多いとされる指数先物。こちらもミニがあります。
- 東証グロース市場250指数先物: 新興市場の動向を示す指数を対象とする先物。過去にマザーズ指数と呼ばれていたものと同じです。
- その他、JPX日経インデックス400先物や、海外の株価指数であるNYダウ先物なども上場しています。
オプション取引 (OSE)
- 先物取引と密接に関連するデリバティブとして、特定の価格(権利行使価格)で原資産を買う権利(コールオプション)または売る権利(プットオプション)を売買する「オプション取引」もあります。日経225オプションが最も代表的です。
債券先物 (OSE)
- 長期国債先物 (10年): 日本の長期金利の代表的な指標である10年物国債を対象とする。
- 中期国債先物 (5年) など。
商品先物 (TOCOM=東京商品取引所)
- 貴金属: 金、銀、プラチナ、パラジウムなど。金は国際的な安全資産としても注目度が高い。
- エネルギー: ドバイ原油、ガソリン、灯油、軽油など
- ゴム: RSS3。
- 農産物: 大豆、小豆、とうもろこし
先物取引の時間 ~夜間や祝日もチャンスがある~
先物取引の大きな特徴の一つが、現物の株式市場よりも取引時間が長いことです。
- 日中取引(日中立会) 通常、午前8時45分~午後3時45分など、現物株式市場の取引時間(9:00~15:30)をカバーする形で行われます。15分日中取引よりも延長して行われています。
- 夜間取引(ナイト・セッション) これが先物取引の大きな魅力です。日中の取引終了後、夕方(17:00)から翌日の早朝(翌朝5:55)まで取引が可能です(※2025年4月現在)。
- メリット: この夜間取引があることで、欧州や米国の株式市場の動向を見ながら取引できる、日本の取引時間外に発表された重要なニュースに対応できる、日中仕事などで取引できない人でも参加できる、といった利点があります。
- 祝日取引 さらに、日経225先物やTOPIX先物などの主要な株価指数先物では、日本の祝日であっても、海外市場が開いていれば取引が可能な場合があります(※取引所の取引カレンダーで確認が必要です)。
このように、取引時間の長さは、個人投資家にとってかなりのメリットです。
一方で、ポジションを保有している場合には、常に市場の変動リスクに晒されることも意味しますので、注意が必要です。

取引時間が長いとそれだけ市場のセンチメントに対応できる時間が増えるということでもあるので特に個人投資家には大きなメリットです。
日経225先物の特徴的な値動きを使った手法
日経225先物の特定時間帯の値動きに一定の傾向が見られるのでそれを利用した手法です。
ただし、これらはあくまで過去データの分析結果であり、将来の利益を保証するものではなく、また統計的な有意性も限定的である可能性がある点に最大限の注意が必要です。
夜間取引(ナイト・セッション)の傾向を利用する
特に夜間取引の寄り付きから引けまでの期間(night)において、過去データ上、平均的にわずかながら価格上昇が見られる傾向があります。これは、日中の取引情報や海外市場の動きが夜間取引の開始時に織り込まれ、その後の取引時間で一定の方向に動きやすいです。どういった要因なのかわかりませんが、傾向としては上がりやすいです。
- リスクも大きい 市場が大きな変動に見舞われた際には、過去の平均的な傾向は全く通用せず、甚大な損失を被るリスクがあります。あくまで傾向がある(傾向が現れる時期がある)という程度に見ておきましょう。
- ボラティリティの変化と統計的有意性 ボラティリティが時期によって大きく変化すること。また、t検定などの統計的手法を用いても、必ずしも明確に「儲かる」と言えるほどの強い優位性(統計的有意性)が見出せない手法です。あくまでトレードする際の参考程度にしてください
市場は常に変化しており、自身のルールや手法に則った方法を使ってトレードすることに勝るものはありません。トレードに聖杯はないです。日々学んで検証を繰り返すことでしかトレードの上達はありません。
先物取引を始めるには?
先物取引を始めるためには、以下の準備が必要です。
- 先物・オプション取引口座の開設: 株式の現物取引口座とは別に、証券会社で「先物・オプション取引口座」を開設する必要があります。
- 口座開設審査: 口座開設にあたっては、投資経験、知識、資産状況などに関する審査が行われます。一定の基準を満たさないと開設できない場合があります。
- 証拠金の預け入れ: 取引を開始する前に、担保となる証拠金を口座に入金する必要があります。必要証拠金額は取引する商品や枚数によって異なります。
- 仕組みとリスクの徹底理解: レバレッジ、証拠金、追証、ロスカット、限月、SQといった先物取引特有の仕組みと、それに伴うリスクを完全に理解しておくことが最も重要です。証券会社のウェブサイトやセミナーなどで十分に学習しましょう。

まずは少額から、かならず十分な証拠金を入れたうえで始めましょう
初心者の方は、いきなり実際の取引を始めるのではなく、まずはデモ取引などを利用して練習したり、少額から取引できるmini先物やマイクロ先物から試したりすることを強くお勧めします。
余談ですが、デモ取引をいくら繰り返してもトレードはさほど上手くはなりません。なぜなら実際におカネを動かしているときのメンタルにはなれないからです。トレードは精神力のいる作業なので、デモ取引で練習をしても実際にやってみないとだめなのです。
先物取引のまとめ
先物取引とは: 将来の特定の期日に、特定の商品(原資産)を、現時点で決めた価格で売買することを約束する取引。デリバティブの一種です。
仕組み: 差金決済、証拠金取引、レバレッジ効果、限月と満期(SQ)、取引所取引などが主な特徴です。
歴史と目的: 元々は価格変動リスクのヘッジ(回避)の必要性から生まれ、農産物から金融商品へと対象を拡大。現代ではヘッジに加え、投機的取引やアービトラージ(裁定取引)にも利用されます。
取引時間: 日中だけでなく夜間取引(ナイト・セッション)が可能な商品が多く、日本の祝日でも取引できる場合があります。
始める前の注意点: 専用口座の開設と審査が必要であり、仕組みとリスク(特にレバレッジ、追証・ロスカット)を徹底的に理解することが大前提です。初心者には難易度が高い取引です。
先物取引は、リスク管理の手段を提供し、多様な投資戦略を可能にする非常に有用なツールです。しかし、その一方でレバレッジ効果により、短期間で大きな損失を被る可能性も秘めています。
先物取引に挑戦する際には、その仕組みとリスクを十分に理解したうえで、必ず余裕資金の範囲内で、徹底したリスク管理のもとで行うようにしましょう。